あたしね、ほんとは母ちゃんに会ったことあんの。 偶然入った店で、ばったり。 ……あの後再婚したんだけど、新しい人ともうまくいかんかったみたいで。 もうアル中になっとったんやろね、目ぇなんか真っ赤で、がりがりに痩せてて。 こっちの事なんか、もうわからんだろな、と思ったの。あたしも男になった後だったし。 ちょっと、気まずくて、声もかけられんかったんだけど。 したらね、 まだ、あたしん事恨んどる?、って。 向こうから声かけてきて。 そら、あん頃はずいぶん恨んでたわ。あたしもオルガも捨てて、自分だけいなくなっちゃって。 でもね、もうずいぶん前のことでしょ? どんくらいになんだろう。何万年も前みたいな気ぃするわ。 もうなんか、生きてる本人の目が前にいるって思えなくて。 そんで、返事もできなくて。黙ってたの。 向こうもなんか考えてたんやろね。返事が無いのが返事、って思ったんかな。 そうね、悪い事したわ、って言って。 席立って、どっか行ってしまったわ。 はは、あんだけの事しといて、悪い事したわ、で済ますんよ? やっぱりあの人無茶苦茶だわ、って思った。 でもね、それと一緒に、もういいか、って。 体ぼろぼろにしてたからとか、そういうんじゃなくて。 なんだろ、あたしらん事覚えてたんだって、思ったからかな。 そんだけの話。